第4章 二つの神に宿さるる生命
「これ…、もしや…」
智の手から、やっとの思いで束ねた半紙が滑り、ばさりと音を立てて床におちた。
再び板間に散らばった半紙のの中、その音に目を覚ました翔が、何一つ纏っていない身体を起こした。
「お師匠さん、これは一体…?」
智の声が、怒りではなく自然と震える。
そして智の手の中にたった一枚残った半紙は、智の手の震えに連動するかのように、ふるふると震えている。
「これはもしや…、私…でしょうか」
違うと信じたい。
このように淫らな姿、私ではない筈。
だってこれではまるで…
「違い…ますよ…ね?」
祈る気持ちで翔に問うと、翔は布団代わりにしていた着物に手を通しながら、床に散らばった半紙の中から一枚を拾い上げた。
「お前だよ」と。
「お戯れを…。だってこれでは…」
春画に描かれる遊女のようでは…
智の年頃では、春画の存在は知っていても、直接目にしたことは無い。
それでめそれがどういう物かは、智も良く知っている。
口にするのも憚れる言葉を飲み込み、智はその場にぺたりと尻を着いた。
「そん…な…、私…は…」
これまで翔に組み敷かれ、快楽に興じる自分の姿など、ただの一度も想像したことのなかった智は、たとえそれが翔の描いた物だとしても、茫然自失とするしかなかった。