第4章 二つの神に宿さるる生命
翌朝、普段より少し遅く目を覚ました智は、翔が起きるのを待つことなく、書き損じた半紙が積まれた翔の史机の前に座った。
目を閉じ、頭の中に風神と雷神の姿を思い浮かべてみる…が、なかなか思うような絵図が浮かんで来ない。
これまで幾度となく描いて来た絵図が、今日に限っては全く浮かんでこない。
それどころか…
あれは確かまだ私が今よりもうんと幼い頃、お師匠さんに連れられ、寺参りに出向いた時だっただろうか…
あの時の私は、山門の両脇に立つ神像が酷く恐ろしく感じて、お師匠さんに抱かれても、山門すら潜ることが出来ず…
そうだ、それでお師匠さんがお参りを済ませる間、私は…
幼い頃の自身の記憶ばかりが頭に浮かんでしまい、結局智は筆を手にすることなく土間に下り、竈門に火をくべた。
慣れた様子で朝餉の支度をし、膳を揃えてから翔が眠る寝間の襖の前に座った。
「お師匠さん、朝餉の支度が整いましたが…」
声をかけるが、返って来る声は…ない。
「お師匠さん?」
もう一度声をかけ、そっと襖を開けると、着物を布団代わりに眠る翔の姿があって…
その周りには、半紙が無数に散らばっている。
「やれやれ、困ったものですね。私には散らかすなと、口煩く言うくせに…」
智は半紙を一枚一枚拾い重ねて行くが、半紙に描かれた絵を見た智の手が不意に手が止まった。