第4章 二つの神に宿さるる生命
色粉を詰め終え、智の姿がそこにないことに漸く気付いた翔は、土間を覗き、庭を覗き、最後に次の間を覗いた。
するとそこには、膝を抱え、元々小さな身体を更に小さくして眠る智がいて…
「やれやれ、困った子だ」
翔は智の白い頬を、それはそれは愛おしむように撫でてから、その耳元に口を寄せた。
「こんな所で転寝をしていては、風邪をひくぞ」
いつの間に眠ってしまったのか、翔の声に飛び起きた智は、縁側から吹き込む風の冷たさに一瞬身体を震わせてから、翔の顔をちらりと見た。
…僅かばかりの転寝では、一度損ねた智の機嫌が戻ることはなく、直ぐに顔を背けてしまう。
「一体何を拗ねている」
「何でもありません」
「何でもないのに、何故そんな恐ろしい顔をしている」
翔が笑いを堪えて言うが、智は頬を膨らせたまま、翔を見ることすらしようとはしない。
「やれやれ、どうしたものか…」
溜まり兼ねた翔は、智の身体を軽々自身の膝の上に乗せると、転寝したせいで乱れてしまった髪を指で梳き、愛の糸で組んだ紐で一つに括った。
そして智の顎先に指をかけ、俯いてしまった顔を持ち上げると、すっかり膨れてしまった顔を覗き込み…
「人の背に絵を描くのが怖いか?」と、普段よりもうんと柔らかな口調で語りかけた。