第3章 呼び覚まされる往の記憶
「でもよぉ、父ちゃん…」
そこまで言って、珍しく潤が口を噤む。
潤は感じていた、二人の間にある、親と子の関係を超えた、特別な空気を…
たとえ本当の親と子ではないとしても、だ。
ただ、それを口にするのがどうしても憚られるような気がして…
「いや、何でもねぇ。それにしても、どっかで会ったような気がしてんだよな、あの子に…」
咄嗟に話を変えた潤に、それ以上昌弘は口を挟むことはせず、徐に腰を上げると、懐から出した手拭いを川の水に浸した。
その時…
「あっ…! ひょっとして…」
突然潤が大きな声を上げたため、昌弘の手から手拭いが抜け落ち、水の流れに逆らうでもなく流されて行った。
昌弘は手拭いを取り戻そうと、そう流れの早くない川に足を踏み入れるが…
「父ちゃん、おいら思い出した。だから早いとこ長屋に帰ろうぜ」
潤に呼ばれ、手拭いを諦め潤の元へと戻った。
そして、置き去りになった道具箱を肩に担ぐと、一目散に長屋へと向かって走る潤の後を、小走りで追った。
そうして長屋に着いた頃には、流石の昌弘も息も絶え絶えの状態で、井戸から組み上げた水を頭からかぶった。
「いってぇどうしたってんだぃ…」
ついでに柄杓で掬った水で喉を潤すと、濡れた顎先を手の甲で乱暴に拭った。