第3章 呼び覚まされる往の記憶
翔の屋敷から長屋へと帰る道すがら、潤はしきりに首を傾げていた。
智を娘と見間違ったこともそうだが、潤は智を一目見た時から、どこかで見知った顔だと思っていた。
それは、潤が翔や昌弘に説得を受けている最中も、ずっと続いていた。
そして、翔と智の関係にも唯ならぬ物を感じていて…
「なぁ、父ちゃん…」
「おう、なんでぃ」
「あの智って子なんだけど…」
「智坊がどうしてぃ」
潤は思っていることを正直に口にすることにした。
潤が思ったことを口に出来ず、長いこと思い悩むのを嫌うのは、父譲りとも言えるだろう。
「お師匠さんとかなんとか呼んでたが、翔の兄貴のお子じゃあねぇのか?」
「ああ、それはなぁ…」
丁度河原へ差し掛かったところで、おそらく誰かが捨てていった物だろう、河川敷に敷かれた茣蓙(ござ)の上に腰を下ろし、潤にも座るようにと促した。
「智坊はな、翔の兄貴がこさえた子じゃねぇ。翔の兄貴の屋敷の前に捨てられてた子なんでぃ」
「えっ…」
潤は言葉を失うと同時に、目を丸くして昌弘を見た。
「じゃあ、本当のお子じゃあ…」
「ああ、そうだ。でもなぁ、翔の兄貴はそいつぁ大切に智坊を育てなすってな…」
それは翔の智に向ける目を見れば、潤だけでなく、誰の目にも明らかだった。