第3章 呼び覚まされる往の記憶
「私が傍にいる」
だから安心して背中を借りれば良いと、翔は智の耳元で言い含める。
「本当…ですか?」
「ああ、本当だとも。それに、折角の潤坊の決心を無下にしては、罰(ばち)が当たるってもんだよ?」
そこまで言われて漸く心を決めたのか、自ら翔の膝を降り、智が長い髪を床に這わせて指を着いた。
「修行の身故、粗相があるやもしれませんが、私で良ければどうぞお願いします」
床に額が触れる程深く頭を下げられると、潤は少々恐縮してしまう。
それを見兼ねた昌弘が、三度潤の頭を大きく無骨な手で掴み、無理矢理頭を下げさせた。
「ところで…」
漸く話が着いたところで、翔が二人の間に割って入るように切り出した。
「潤坊はその…心に決めた絵図はあるのかい?」
「そりゃ勿論ですとも」
聞かれて意気揚々と答えた潤は、ばさりと半纏を脱いで腹掛けだけの姿になると、自身の左右の肩の辺りを自らの手で撫でた。
「ここに、いつか風神と雷神の紋々を入れるのが、おいらの夢でもあったんだ」
「ほぉ…、風神と雷神か…」
潤の言葉に、翔は驚きを隠すことなく声を上げた。
風神と雷神…それは、智が最も得意とし、幼い智が繰り返し半紙に描いてきた絵図の一つでもあったからだ。
翔は心の奥底で、智と潤の運命的な結び付きを感じていた。