第3章 呼び覚まされる往の記憶
「元々器用なお人じゃねぇってのは、薄々勘づいてはいたがな、筋一ついれるのにもえらく時間がかかってな…」
昌弘が意気揚々と話すのを、潤も、そして智も目を輝かせて聞き入る。
その横で、翔は終始恥ずかしそうに頭を掻いている。
「漸く完成してみたら、弁天さんの顔がまるっきりおかめみてぇでな、当時の棟梁には良く笑われたもんよ」
「お師匠さんにもそんな頃があったのですね」
袂で口元を隠しながら、智がころころと笑う。
「でもよ、そいつがどうだ、今じゃお弟子さんまで抱える、立派な彫り師になりなすったんだぜ?」
昌弘は半纏の片袖を肩まで捲り上げると、丁度上腕の辺りに描かれた弁天を指さした。
「俺はよ、このおかめみてぇな弁天さんのおかげっていうかよ、翔の兄貴のおかげで、ここまで真っ当に生きて来られたと思ってんだ」
「そんな、大袈裟ですよ」
謙遜する翔に、昌弘は「いいや」と首を振り、愛おしそうに腕の弁天を撫でた。
「だからよ、潤。俺にとって翔の兄貴がそうであったように、お前ぇにもよ…」
昌弘が潤の肩に手をかけ軽く揺すると、潤は昌弘の意を汲み取ったのか、智の方を向き直り、姿勢を正した。
「俺の背中、お前ぇに預けるよ」と…