第3章 呼び覚まされる往の記憶
「良いんじゃねぇか?」
昌弘は然程考えるまでなく、答えを出した。
勿論、簡単に答えが出せたわけではない。
そこには、昌弘なりにちゃんとした理由があってのことだ。
「俺ぁな、智坊が餓鬼の頃から知ってっけど、智坊の描く絵図は、そりゃ大したもんなんだ」
事実、幼い頃の智には、翔の仕事場だけが遊び場で、半紙と筆さえ与えておけば、時間も忘れてえかきに没頭することも少なくはなかった。
それこそ寝食すらも忘れる程に…
智自身、絵を描くことは好きで、最初こそ翔の見よう見まねではあったが、そのうち独自の
世界観を絵で表現するまでになった。
その実力は、昌弘が言うまでもなく、翔が一番
良く知っている。
その翔が智をと言うのだから、昌弘にとっては断る理由がない。
「それにな、俺の背中に初めて紋々入れたのは、他でもねぇ、ここにいる翔の兄貴なんだよ」
「そう…なのか?」
潤が驚いた様子で翔を見ると、翔は少しだけはにかんだように笑い、それからこくりと頷た。
「そうでしたね、私が初めて背中を借りたのは、昌弘さんでしたね」
「その頃の兄貴ときたら、今とは比べもんにならねぇくらい、酷でぇもんでな…」
当時のことを思い返しているのだろう、昌弘は時おり笑いを堪えながら話し出した。