第3章 呼び覚まされる往の記憶
「彫りてぇ。俺が父ちゃんの紋々に憧れてたの、父ちゃんだって知ってるだろ?」
昌弘の背に描かれた観音菩薩像だけじゃない、潤は昌弘自身にも強い憧れを抱いていた。
だからこそ、昌弘と同じように背に墨を入れ、昌弘のような強い男になりたいと、幼い頃よりずっと思っていた。
勿論、墨を入れたところで、強くなれるとは限らないのだが。
「どうしても彫りてぇんだな?」
「ああ」
潤は強い決意をこめ、昌弘を真っ直ぐに見つめた。
「分かった。話は付けてやる」
「本当か?」
途端に浮かれた表情になる潤に、昌弘は「ただし」と釘を刺す。
「いっぺんでも泣き言いってみろ、親子の縁諸共ぶった切ってやるからな。覚悟しとけよ?」
いつになく厳しさと強い口調で言われると、潤の肝が僅かに縮み上がった。
昌弘の言葉が、脅しや、ましてや冗談で言っているのではないことを、感情の機微には敏感な潤は、咄嗟に感じ取っていた。
潤はごくりと喉を鳴らすと、これまでよりも数倍力強く頷いた。
その様子に、昌弘も漸く観念したのか、唇の端を持ち上げて笑うと、やれやれといった風に肩を竦めた。
「ったく、お前ぇって奴ぁ、一体全体誰に似たんだか」
「父ちゃんに決まってんだろ?」
「俺か? 俺はお前ぇみたいたに融通の利かねぇ男じゃねぇ」
そう言って昌弘は潤の肩にあった道具箱を取り上げると、軽々自分の肩に担ぎ、再びすたすたと前を歩き始めた。