第3章 呼び覚まされる往の記憶
そんな潤の気持ちを、当然昌弘が知らない筈はなく、潤に問われる度「お前ぇにはまだ早い」と繰り返し言い含めてきた。
潤にしたって、わざわざ父である昌弘の承諾を得ずとも、自らの意思で背に墨を入れることだって出来た。
でもそれをしなかったのは、昌弘の背の観音菩薩像を彩る色彩の鮮やかさと、繊細でいて力強い筋彫りの見事さに、自分が背に墨を入れるとしたら、昌弘と同じ彫り師に、と思っていたからだ。
ただ、そうするには昌弘の承諾がどうしても必要だった。
どうせまた「そのうちな」で済まされるんだろうな…
半ば諦めにも似た気持ちで溜息を落とす潤。
すると、半歩前を歩く昌弘が歩を止め、後ろを振り返った。
「そんなに彫りてぇか?」
聞かれて潤は迷いも一切なく頷く。
「転んで膝小僧擦りむくよりも、うんと痛ぇが、お前ぇに耐えられんのか?」
十が痛みに酷く弱いことを、昌弘は良く知っている。
その上で昌弘は潤に再度確かめた。
「彫ってる最中だけじゃねぇ、その後だって相当なもんだぞ?」
「分かってる」
潤は幼い頃より、昌弘が痛みと、その後に来る痒みに顔を顰めるのを、何度となく目にしてきている。
今更昌弘に言われるまでもない話だ。