第3章 呼び覚まされる往の記憶
十五を過ぎ、すっかり青年の風貌へと成長した潤は、父昌弘に習い大工仕事の手伝いを始めた。
いくら十五を過ぎたといえ、心根はまだまだ子供。
遊ばせておくことも出来たが、その年頃の若者に好き放題させておけば、必ずと言って良い程、よからぬ事を覚えてしまうが常だということを、昌弘自身の経験上から懸念してのことだった。
現に、同じ長屋に住み、潤の幼友達でもある和也は、毎夜毎夜小綺麗な着物を身に纏っては、陰間の真似事をしていると聞くし、昌弘も実際に侍風情の男と並んで歩く姿を、何度も見かけたことがある。
親には親の、子には子の人生があることを十分に承知している昌弘だが、潤にだけは真っ当な道を生きて欲しいという、昌弘なりの親心でもあった。
尤も、元来心根も正直で、一本筋が通った性格の潤にとっては、昌弘の懸念など不要ではあったが…
「父ちゃん」
半歩前を歩く昌弘の背に、大工道具の詰まった道具箱を肩に担ぐ潤が声をかける。
昌弘は後ろを振り返ることなく「なんでぃ」と答えると、〝松〟の文字が書かれた法被の袖に組んだ両手を突っ込んだ。
「何時になったら、俺の背中にも父ちゃんみたいな紋々が入れられるんだ?」
潤は、幼い頃よりずっと、昌弘の背に描かれた観音菩薩像に強い憧れを持っていて、いつか自分も…と願い続けてきた。