第13章 偽りを語る唇… 抗う心…
「やはり、お前一人を残して行ったのは、間違いであったか…」
後悔の念からなのか、翔の表情に苦渋の色が浮かんだ。
「寂しい思いをさせて済まなかった」
智の頬を撫でながら、謝罪の言葉を口にする翔に、智は首を横に振っただけで応えた。
謝らなければならないのは私…
これ程までに私を案じ、愛して下さる貴方様を、私は裏切ったのですから…
でも私は…
「ところで、病身のお前を放って和也は何処へ?」
「和也でしたら、先程買物へ…」
「それにしては遅くないか?」
「そ、そう…ですね…」
まさか和也が八百屋の息子雅紀と逢引しているとも言えず、智は翔の視線を避けるかのように瞼を伏せた。
和也が雅紀を好いていることは、疎い智でも薄々気付いてはいたが、情を交わす間柄にまてなっていると聞かされたのは、つい最近のこと。
ただ、そのことを翔に打ち明けるのは、どうにも引っかかるものがあり…
「お腹が空いたら戻って来ますよ、きっと…」
「そうだな。よし、では飯の支度は私がするとしよう。それまでお前は暫く休んていなさい。」
「で、でも…お疲れなのでは…? それに…」
「なぁに、案ずることはない」
「い、いえ、そうではなくて…」
長旅の疲れも取れていないのは勿論だが、智の気がかりはそれだけではない。
何しろ、翔は茶の湯を沸かすことくらいでしか、台所に立ったことがないのだから…