第13章 偽りを語る唇… 抗う心…
案の定、というか…
ゆっくり横になっていられる筈もなく、智は重い身体を起こし、土間へと降りた。
「案ずるでない。粥の一つや二つくらい…」
袖を肩まで捲り上げ、襷掛けまてした翔は自信たっぷりに言うが、智にしてみれば気が気でない。
「そうは仰られても、このままでは屋敷ごと丸焼けになってしまいそうて…」
轟々と燃え盛る竈門の火に目をやりながら、智は翔の手から木杓子を奪い取った。
「長旅の疲れもあるでしょうし、少しお休みになられては? 後は私がやりますから。それに、もう半時もすれば和也も戻るでしょうし…」
渋る翔の背中を押し、智はさらりと肩に落ちる長い髪を束ねた。
研いだ米を火にかけ、木蓋を被せると、程なくしてくつくつと湯の沸く音が聞こえ始める。
その音を聞きながら、智は上がり端に腰をかけ、両手で顔を覆った。
お師匠さんの顔が見られない。
お師匠さんの目を見るのが…怖い。
お師匠さんに優しくされるだけで、こんなにも胸が痛いなんて…
ああ…、私はどうしたら…
智が小さく息を吐き、肩をがくりと落としたその時、木戸がからりと開き、桶を抱えた和也が戻って来た。
和也は蜆て満ちた桶を土間の隅に置くと、智に駆け寄った。