第13章 偽りを語る唇… 抗う心…
昼を過ぎ、床に横になったままおすずに餌を与えていると、門扉がからりと開く音がして、智は雪見窓から見える庭先に視線を向けた。
そして木戸が開くと同時に、「戻ったぞ」と翔の声が響いた。
潤と出会う以前…いや、密な時を過ごす以前ならば、その声を聞いただけで安堵が込み上げて来ていた筈なのに、今の智の胸中はそうではない。
底知れぬ不安と、僅かばかりの罪悪感が満ち溢れている。
智は片手で身体を支えられながら、寝間着の襟をきちんと合わせ、乱れた髪を指で梳いて整えた。
平静を装った…つもりだった。
が、親同然に智を育てて来た翔にそれが見抜けぬわけもなく…
襖を開け放ち、見るからに弱りきった智の姿を目にした翔は、背にしていた風呂敷包みを乱暴にその場に置き、足早に智の元へと駆け寄った。
「これは一体どうしたことか…」
翔は両手を震わせながらも、一回り小さくなったようにも見える智を、胸に掻き抱いた。
「苦し…」
「す、済まん、つい…」
そう強くされたわけでもなく、ほんの少しの息苦しさを訴える智に、翔は僅かに腕を緩めただけで、背に回した手は休むことなく小さな背を撫で続けている。
「どれ、顔を良く見せておくれ?」
翔は智の顎に手をかけ上向かせると、まだ熱が下がりきっていないせいか、普段よりも水気を多く含んだ目を見おろした。