第13章 偽りを語る唇… 抗う心…
その日の夜から、智はいつになく高い熱に魘されれ、翌朝を迎えても下がることはなかった。
潤の背に墨を入れるため、ろくに休みを取ることもなく、常に気を張り詰めた状態が続けば、至極当然のことと和也は言った。
実際、日を追う事に心身共に疲弊していることを、智自身感じていた。
それに加え、久方ぶりに…それも、翔以外の男をその身に受け入れたのだから、いくら丈夫な智でも身体を壊すのも無理はない。
「一刻もすれば、お師匠さんが戻られると言うのに…」
床に臥せったまま、両手で顔を覆った智に、和也は小さく息を吐きながらそっと髪を撫でた。
「湯あみだってしてないし、髪の艶だって無くなって…。こんな姿を見たら、お師匠さんが何と思われることか…」
「無理して拗らせるわけにもいかないし、仕方ないさ」
「それはそうですけど…」
「それに、今のお前さんにとっては好都合…なんじゃないかい?」
和也の言葉に、顔を覆っていた手を剥がし、小首を傾げるような仕草を見せる智。
その表情には、僅かな怪訝が浮かんでいて…
「だって考えてもみろよ。今のお前さんが、あの人に触れられて平常心でいられるとは、とても思えないけどねえ…」
言われて、はっとしたように目を見開いた智は、小さく首を横に振った後、そっと瞼を伏せ、頬を赤らめた。