第13章 偽りを語る唇… 抗う心…
敷きっぱなしの布団に智を寝かせ、枕元に胡座をかいた和也は、智の額にかかった髪を指でそっと掬った。
「ちょいとばかし熱もあるみたいだし、今日はゆっくり休みな」
頭を撫でながら、いつになく優しい口調で言われ、智は長い睫毛を微かに震わせ頷いた。
そして小さく息を吐き出すと、熟れた果実の様に赤い唇を開いた。
「あの方は何も?」
あの方…というのが潤のことだとすぐに察した和也は、それまで頭を撫でていた手をぴたりと止め、一瞬視線を宙に泳がせた。
「迎えに来る…ってさ…」
「え…?」
「分かんねぇよ? 分かんねぇけどさ、迎えに来るから、待ってろ…って」
それは智自身予想もしていなかったと同時に、どこかで期待していた言葉でもあった。
ただ…
「で、でも、そのようなこと、お師匠さんがお許しになるとはとても…」
親のない智を我が子同然に育て、まだ手習いも覚束ない頃より絵筆と刺棒を握らせ、彫師としての手解きまでしたのは翔だ。
それだけじゃない。互いの情を交わし、愛でられる喜びを智に教えたのも、他でもない翔なのだ。
智に対する情が並々ならぬものがある。
だからこそ、智が自分以外の相手に恋慕するなど、決して許すことはないだろうと、智自身重々承知していることでもあった。