第13章 偽りを語る唇… 抗う心…
和也が用意した寝間着を、清めた身体に纏った智は、のろのろとした動きで床から抜け出ると、和也の制止も聞かず、覚束ない足で土間へと降りた。
そして、米櫃から掬った米を釜へと移し、水甕から汲んだ水を注ぎ入れると、慣れた手付きで米を研ぎ始めた。
ところが…
「あっ…」
突然目の前が暗くなった智は、よろよろと体が揺れ、竈門の端に手を着いた。
咄嗟に駆け寄った和也が細い腰を支えてくれたおかげで、幸いにも倒れずに済んだものの、その顔は蒼白で…
「だから言わんこっちゃない…」
特に咎めた訳でもなく、ただ智の身を案じての一言だったが、何故だか智の目には大粒の涙が浮かんだ。
「ごめ…なさい…」
「い、いや…、別に謝ることは…」
和也に支えられながら、土間の上がり端に腰を下ろした智は、無言で隣に腰を下ろした和也の肩に、こつんと頭を預けた。
「身体がきつけりゃ、暫く横にでもなっときな」
情を交わした後の身体のきつさは、和也自身良く知っている。
「そう…ですね…。でも、あと二日もすれば、お師匠さんも戻られるし、休んでいるわけには…」
「ったく、お前さんて奴ぁ、どれだけ頭が硬ぇんだか…」
和也は小さく息を吐き出すと、有無を言わさず智の腕を自身の肩に掛け、引き摺るようにして床間へと引き込んだ。