第13章 偽りを語る唇… 抗う心…
永遠に目覚めなければ良いと…
そう強く願いながら目覚めた朝、智の隣りに潤の姿はなかった。
でもそれは、智自身心の片隅で予感していたことでおって、何ら驚くこともなければ、ある筈のない姿を追い求めることもない。
あるのは、僅かに重さを感じる身体の気怠さと、胸の奥にぽかりと空いてしまった穴…、そして微かに指の先に感じる彼の人の温もりだけだ。
智は脱ぎ散らした寝間着を引き寄せると、冷えた肩に掛け、胸の前に引き寄せた。
その時、板間と土間を仕切る襖が静かに開き、湯を貯めた桶と手拭いを手にした和也が顔を覗かせた。
「目、覚めたかい」
「え、ええ…」
「そうか…」
どことなく頬を赤くした和也は、桶の湯が溢れないよう、そっと枕元に置くと、湯に浸した手拭いを智に差し出した。
「ありがとう…」
受け取った手拭いを首筋に当てた智は、互いの流した汗と欲で塗れた身体を拭いながら、小さく息を吐き出した。
「背中…拭いて頂けますか?」
「良いよ、貸しな」
手拭いを再度湯に浸し、肩に掛けた寝間着を落とした和也は、まるて散り際を忘れてしまったかの様に咲き誇る牡丹を、固く絞った手拭いでそっと拭った。
その間、二人の間に会話は無い。
互いに、言いたいことも、聞きたいことも山のようにあったのに…