第12章 荒ぶる昇竜と、乱華する牡丹
時折遠退きそうになる意識を繋ぎ止めながら、どれくらいの時間痛みに耐え続けただろうか…
智が刺棒をことりと置き、潤の口から轡を外した。
「お疲れ様でございました」
綺麗に揃えた指の先を床板に着け、深々と頭を下げた智の長い髪が、見事な流線を描いた。
「終わった…のか?」
「ええ…。後は墨が乾くまで…、あっ…」
声を上げる間もなく、潤の手が智の首元を掴み、強引に引き寄せた。
互いの唇がぶつかる様に重なり、息つく間も惜しむかのように舌を絡め合い、吸い合う。
そして潤の手が智の襟元へと忍び入り、不器用な指先が智の胸の先を掠めた。
「い、いけません…」
ついつい甘い刺激に流されそうになりながら、智は肩から落ちた襟元を掻き寄せた。
「どうして?」
「和也が…、えっ?」
言いながら振り返った智は、そこにある筈の姿がないことに驚き、長い睫毛を瞬かせた。
さっきまでそこに居たのに…
「和也の野郎なら、やたらとめかし込んで出かけて行ったぜ」
「まあ…、そうなのですね…」
和也が出て行ったことにも気付かない程、深く集中していたのだろうと、智は乱れた襟元を重ね合わせた…
が…
「あっ…」
突然視界が反転し、気付けば潤に見下される格好になっていた智は、羞恥のあまり視線を逸らした。