第12章 荒ぶる昇竜と、乱華する牡丹
和也のおかげで、漸く落ち着きを取り戻した智は、数ある刺棒の中から一本を選び手に取った。
目を閉じ、精神を統一させる。
いくら気が落ち着いたとはいえ、張り詰めた緊張が全て解れたわけではない。
師でもある翔もそうであったように、それ程朱の色を刺すのは神経を使う作業でもある。
「少し痛みますが、堪えて下さいね?」
智は潤の背に手を置くと、駆け昇って行く竜をなぞるように指の先を滑らせた。
そして潤の口に轡を噛ませると、深く吸い込んだ息を吐き出し、潤の背に刺棒の先を突き刺した。
「くっ…」
轡を噛ませた潤の口の端から、堪えきれずに呻きが漏れたが、それに構うことなく智は刺棒を潤の背に落とし続けた。
いつしか潤の背にはいくつもの血の粒が浮き上がり、静かに朱の色粉と混ざり合って行く。
「大丈夫…ですか?」
「あ、ああ…、なんとか…な…」
これまでよりも強い痛みに、時折意識が遠ざかりそうになりながらも、潤は額の汗を光らせ頷く。
いっそのこと、気でも失ってくれたら…
貴方の辛そうな顔を見なくても済むのに。
心の中で願うが、それは到底叶えられる筈もなく…
その後も、無数の針が皮膚を破る度、潤の口からは呻きが漏れ、額に浮かんだ汗の粒が筋になり頬を伝った。