第12章 荒ぶる昇竜と、乱華する牡丹
長い睫毛に縁取られた黒曜石の様な瞳が、まるで熱に熱に浮かされたかのように潤み、頬を赤らめる智を見下ろす。
「あ、あの、手を…」
ついさっきまて刺棒を握っていた手は、今は潤の強い力で布団に押さえ付けられ、智の弱い力ではとても解けそうもない。
「嫌…かい?」
その言葉が何を意味するのか、問わずとも察した智は、思わず視線を逸らしてしまう。
嫌…だなんて、そんな…
ずっとこうしたいと願っていたことなのに…
でも、でも…、私は…
心の奥底に秘めていた想いが溢れそうになり、智はぎゅっと唇を噛んだ。
そうすることで、ともすれば口をついて出そうになる言葉を、必死に飲み込もうとした。
ところが…
「あんたが好きだ…」
潤からの告白に、とうとう堪えきれなくなった智は、形ばかりの抵抗を止め、静かに瞼を閉じた。
それがまるで合図かのように…
「良い…のかい?」
普段とは違う、低い声で問われ、智はこくりと頷く。
そして…
「ん…」
固く閉じていた唇に、かさついた唇が重なった。
感触を愉しむかのように何度も吸われ、その度に智の身体からは力が抜けて行く。
そして漸く互いの唇が離れた時、細い肩を上下させながら智の目の端から、一筋の涙が溢れた。