第12章 荒ぶる昇竜と、乱華する牡丹
翔が戻るまで残り二日となった頃、智は漸く最後の一色に取りかかった。
ただそれはそれまでとは違って、一層精神を集中させる必要があった。
そのせいなのか、色粉を混ぜる智の手は震えていて…
何度も深い呼吸を繰り返す智の様子に、部屋の片隅で見守っていた和也が見兼ね、そっと肩に手を置き、白湯の入った湯飲みを差し出した。
「これでも飲んで、少し落ち着きな」と。
智は和也に軽く頭を下げると、白湯を一口…また一口と、ゆっくりと飲み進めた。
そうすると不思議なことにそれまでとは一転、張り詰めていた神経が解きほぐされ、手の震えも止まった。
「ありがとう、和也…」
「いやさ、俺に出来ることったらこれくらいしかないからさ」
謙遜し、頭を掻く和也に、智はそっと首を横に振る。
「和也がいてくれたおかげですよ。私一人では、とてもここまでは…」
ありがとう、と今度は深く頭を下げる智に、どう返したものかと頭を悩ませた和也は、智の手からすっと湯飲み茶碗を奪い取ると、静かに部屋の片隅に腰を下ろした。
これまで人に優しくされたことも無ければ、礼など言われたことの無い和也だから、返す言葉が見つからないのも当然と言えば当然なのかもしれない。