第12章 荒ぶる昇竜と、乱華する牡丹
智の非れも無い姿を目にして以来、潤の胸のざわつきが静まることは無かった。
それは時に、身体の奥を熱くさせ、鼓動さえも早くした。
無数の針束が身体に与える痛みの合間、不意に触れた智の指先から伝わる僅かな体温に、身体が震え胸の痛みを感じた。
一体全体何だってんだい、この胸に何か詰まったような息苦しさは…
そうだ、あの時から…いや、もっと前から感じていた感覚ではあるけど、ここ最近は更に酷くなって来やがる。
時折胸を押さえ、苦悶に満ちた表情を浮かべる潤に、智も気が気でない様子で…
「痛みますか?」
施術の手を止め、うつ伏せた潤の顔を覗き込んだ。
それが潤の鼓動を早めることになるとも知らずに…
「少し休みましょうか?」
いくら時間が無いとはいえ、連日連夜昼夜を問わず針束に皮膚を突かれれば、当然のことながら身も心も疲弊する。
痛みには滅法弱ければ、尚の事。
「いや、かまわねぇ…」
それでも潤は智に手を止めることを許さなかった。
四日もすれば翔が戻ることを、翔から智に宛てた文で知ったからだ。
あの人が戻る前に、何としても…
そんな潤の想いを知ってか知らずか、智も刺し棒を手から離すことは無かった。