第11章 募る恋情と、隠せぬ想い
「すぐ晩餉の支度しますね…」
着替えを済ませ、土間に立った智は、袂をたすき掛けにし、前掛けをかけた…が、その手を和也が止めた。
「いいから」
「え…?」
「はい、これ」
首を傾げる智の前に、和也が竹皮の包みを差し出す。
「これ、は?」
「実はさ、ちょいと小腹ご減ったんで、蕎麦屋なね立ち寄ったんだけどさ、そこで偶然昔馴染み…ってぇかさ…」
そこまで言って和也は続く言葉に詰まってしまう。
「その人が土産に、って持たせてくれてさ」
「まあ…、和也にそんなお友達が?」
「まあ…な…」
まさか言えねぇよな…
蕎麦屋ってのは建前で、実際は陰間茶屋で昔の馴染み客としけ込んでた、なんてさ…
智には言えねぇな…
和也が素性を智に明かさないのは、元々は翔と交わした約束でもあった。
ただ智と暮らすうち、自分が陰間だと言うことを、智にだけは知られたくないという思いが、和也の胸の片隅には芽生え始めていた。
尤も、知られたところで、智のことだから、和也を蔑むこともなければ、嫌悪することもないことを、和也は十分承知している。
和也は智の前で竹皮の包みを開くと、きらきらと目を輝かせる智の口元に、幼子の拳程ほあるだろうか、青魚の乗った寿司を運んだ。