第11章 募る恋情と、隠せぬ想い
土間と板間を仕切る襖が、それはそれは物凄い音を立てて開き、それまで熱い視線を交わしていた二人は、飛び上がる勢いで互いの身から離れた。
「まったく、ちょいと目を離した隙に、何をしてんだか…」
恐る恐る振り向いたその先には、やれやれと言った様子で首を振る和也が立っていて…
「なんでぃ、脅かすんじゃねぇよ」
心底安堵した様子で、潤が胸を撫で下ろした。
そして智も…
「そ、そうですよ、襖は静かにといつも言ってるのに…」
口では文句を言いながら、赤くなった顔をたもとで隠し、そそくさと土間へと駆け下りた。
下駄を履くのももどかしく庭へ飛び出し、盥に溜めた井戸水に、墨で汚れた両手を浸した。
「冷た…」
指先に感じる水の冷たさが、火照りを冷ましていくと同時に、身体の熱まで奪って行くような気がして、思わず肩を竦めた。
汚れを落とし、手拭いで水気を拭き取った智は、自身の胸にそっと手を宛てた。
まだこんなに…
手のひらから伝わる鼓動の強さは、まるで胸を締め付けられるようで、智の表情が切なく歪んだ。
襟元を掴んだ手には知らず知らず力が入る。
どうしてこんなに胸が苦しいのかしら…
翔に抱きしめられたら時とは違う胸の高鳴りと、息が詰まる程の苦しさに、智は盥にに張った水に映る自信に向い、小さく息を吐き出した。