第11章 募る恋情と、隠せぬ想い
待ち焦がれた想い人に会えた喜びからか、本来の目的をすっかり失念していた智は、慌てた様子で姿勢と、そして僅かに乱れた襟元を正した。
「実は…」
智は、ずっと心残りになっていた、潤の両肩の風神と雷神を完成させるのは勿論のこと、新たな墨を潤の背に入れたいことを伝えた。
そして、文机の引き出しから一枚の半紙を取り出すと、それを潤の前に広げてみせた。
「こいつぁすげぇや…」
一瞬にして目を見開き、驚きと同時に感嘆の声を上げた。
「こいつをおいらの背に?」
問われた智は無言でこくりと頷くが、その表情は決して喜びや希望に満ちた物ではなく、寧ろ苦悶の色すら漂わせている。
「どうかした…か?」
一変してしまった顔を覗き込まれ、智は小さく息を吐き出した智は、「ただ…」と言ったきり唇をきゅっと噛み縛った。
「ひょっとして父ちゃんのことか? それなら、仕事で遠方まで出かけてて、暫くは帰って来ねぇから安心しな?」
智の表情が曇った原因が、てっきり昌宏のことを気にしてのことだと思った潤だったが、智は「そうではなくて…」と首を振る。
「じゃあ一体…」
「時間が…」
「時間?」
「ええ…」
翔が戻るまで凡そ半月余り…
その間に風神と雷神、そして新たな墨を入れるには、あまりにも時間が少な過ぎるのだ。