第11章 募る恋情と、隠せぬ想い
どれくらいの時間をそうしていただろうか、「あのっ…」と二人の声が重なり、思わず互いの顔を見合わせた。
「ところで…」
手の仕草だけで先を譲られた潤は、一つ咳払いをしてから、それまで引き縛っていた口を開いた。
「用向きってのは、一体…」
「和也からお聞きなのでは?」
てっきり和也から要件を聞いているとぼかり思っていた智は、小首を傾げる。
「いや、何も…。ただ、あんたが会いたい…ってことだけで…」
「まあ、そうでしたか」
「で、でもよ、おいらも丁度あんたに会いたかったし…よぉ…」
「え…?」
言いながら、徐々に熱くなって行く頬を、潤は腰に下げた手拭いて乱暴に拭いた。
汗など一粒たりとも浮いてはいないのに…
「そ、それで智さん、あんたの用向きってのは?」
言われて智は思い出したように姿勢を正すと、和也の手を借りてでも潤を屋敷に呼び出した旨を、それはそれは真剣な面持ちで潤に話して聞かせた。
そして、智の願いを叶えるためには、あまりにも時間が少ないことも…
「どう…でしょうか?」
話し終え、胸の前で両腕を組んだままの潤を覗き込んてみるが、その顔は酷く険しい物に見えて…
「あ、あの、もしお嫌でしたら、私は…」
断られるだろうと、潤の表情から感じ取った智は、咄嗟に潤に背を向けた。