第11章 募る恋情と、隠せぬ想い
身形を整え、庭の片隅に祀られた地蔵に両手を合わせた智は、心と同時に表情も引き締めた。
仕事場に戻り、予め用意しておいた色粉と、そして数種類の針束を晒しの上に並べた。
「もうそろそろ来る頃だな」
言われて智は布紐を手に取ると、まるで舞でも踊るかのような仕草で、袂が邪魔にならないようたすき掛けにした。
真新しい晒を敷いた布団の前に座し、自然と逸る気持ちを落ち着かせようと、静かに瞼を閉じるが…
どうしてかしら…
あの方に会えると思うだけで、こんなにも胸が高鳴るなんて。
こんなことではいけないのに…
一度は引き締めた筈の心が、少しずつ乱れて行くのを感じる。
それは智の細い指先を震えさせ…
「和也…」
助けでも求めるかのように振り向いた先で、和也がこくりと頷き、智の震え始めた手に、自身の手を重ねた。
「大丈夫、お前さんなら出来るさ」
「い、いえ、そうではなくて…」
てっきり仕事に対する不安に手を震わせているとばかり思った和也は、纏めた髪が乱れる程に首を振って否定する智に、首を傾げて見せた。
「じゃあ何だってのさ。こんなに震えちまって…」
「それは…」
問われたところで、胸の奥から湧き上がって来る、身をも焦がすような感情には、智自身説明のしようがなく…