第11章 募る恋情と、隠せぬ想い
濡れた髪を高い位置て一纏めにし、ぐっしょりと濡れた白装束を肩から落とす。
すると、智の背かろ尻にかけて描かれた牡丹が、普段よりも色を濃くして白い肌に咲き…
「綺麗だな…。あの人がどれくらい名のある彫師かは知らないが、腕は確なようだな」
思わず口をついて出て言葉に、智がくすりと笑って肩越しに和也を振り返る。
「ふふ、だって翔さんは、私にとって唯一人のお師匠さんですから」
自分のことでもないのに、誇らしげに胸を張り、柔らかな笑みを浮かべながら、智は淡い菫色の着物に袖を通した。
「珍しいね、お前さんがそんな色を選ぶなんて」
「そう…ですか?」
「俺が知る限りのお前さんは、大抵水縹色(みはなだいろ)か、それに似たような色の着物ばっかで…」
言われて、智は僅かに首を傾げるが、すぐに思い返したように笑い出す。
「確かに、和也の言う通りかもしれませんね」
「だろ?」
「ええ」
実際、翔と呉服問屋に出向いた際も、数多ある色とりどりの反物の中から智が選ぶのは、いつも似たような色合いの物ばかり。
たまには違った色の着物をと願う翔とは、それで人目を憚らず口喧嘩になったことも一度や二度ではない。
その私が、あの方のためだけにこの色の着物を…
智は襟元をぴたりと合わせると、腰に金糸の混じった帯を締め、懐に手拭いを忍ばせた。