第11章 募る恋情と、隠せぬ想い
長く艷やかな黒髪を一つに束ね、白装束を纏った智は、井戸から汲み上げた水を身に浴びせながら、何度も両手を合わせる。
いくら日差しの強い季節とはいえ、井戸水は華奢な身体を震えさせる程に冷たく、何度か繰り返すうち、紅を引いた様に赤い智の唇も徐々に色を変えて行った。
「それくらいにしておきなよ、風邪引いちまうぜ?」
智の身を案じた和也か声をかけるが、智は首を横に振り、再び水を浴びた。
特に信心深いわけでもないが、師である翔が縁起担ぎのために繰り返してきた禊の儀式を、唯一の弟子である智は怠るわけにはいかないのだ。
「やれやれ…」
ここ数日一緒に暮らし、智がどれ程頑固者なのかを知った和也は、渇いた手拭いを手に、縁側に大の字に寝転がった。
そうするうち、徐々に瞼は重たくなって来るが、落ちかけた瞼を擦っては、睡魔を堪え…
「お待たせしました」
漸く禊を終えた智の声に、身体を起こした和也は、渇いた手拭いを智の濡れた肩にかけた。
「寒くはないかい?」
「ええ…、大丈夫です」
痩せ我慢だということは、智の肩に触れた瞬間分かった。
すっかり冷えてしまった身体は、見て分かる程に震えている。