第10章 花脣なぞる指先に、彼の人の玉脣を想う
余程嬉しかったのか、床に入ってからも片時も翔からの文を手放そうとしない智に、呆れた様子で和也が一つ息を吐き出す。
「気持ちは分からなくもないが、寝る時くらい、枕元に置くとかさ、したらどうだい?」
寝ている間に、せっかくの文が破れたり汚れたりしないようにと、和也なに案じてのことだった。
「そう…ですね、その方がきっと良いこもしれませんね」
和也の言葉に、素直に文を枕元に置いた智だったが、突然何かを思い出したかのように飛び起きた。
「和也、お願いが…」
「何だい、お願いってのは?」
同じように起き上がった和也は、智と向き合う格好で胡座をかいた。
「実は…」
智の願い…
それは、翔が戻るまでに、潤にもう一度会いたいということだった。
勿論、ただ会うだけではなく、それには智なりのちゃんとした理由もあって…
「分かった、その頼み引き受けようじゃないか」
「ありがとう、和也」
「他ならぬ智の頼みだからな。それで、あの人は何時(いつ)頃こちらへ?」
「文にはあと半月程と…。でも、お師匠さんのことだから、実際にはもう少し早まるのかと…」
和也は智の頼みを快く引き受けると、早速とばかりにあれこれと計画を練り始めた。