第10章 花脣なぞる指先に、彼の人の玉脣を想う
和也は、朝一で潤の元を訪ねることを智に約束し、再び床へと入った。
行灯の火を消し、智も同じように床に入り、静かに瞼を閉じるが、どうしたことか全く眠気が来ず…
「どうした、眠れないのかい?」
普段なら、和也が話していようが、お構いなしで寝息を立てる智だが、珍しく寝息が聞こえて来ない。
「ええ…、何だか色々考えてしまって…」
「へぇ、それはあの人…翔さんのことかい? それとも…」
和也が何を言いたいのか…、言いかけたその言葉の先は、あえて聞くまでもなく智には分かっていて、真っ暗な中で見える筈もないのに、赤くなった顔を布団の端で隠した。
「私は別に誰のことも…」
「ふーん、そうかい? ま、良いさ。聞くだけ野暮ってもんだしな?」
和也は布団で顔を覆ったままの智の髪を一撫ですると、くすりと笑ってから、そう体格の変わらない智の身体を抱き寄せた。
「和…也?」
呼びかけに答えることなく、和也は智の額に唇を押し当てると、背中をとんと叩いた。
翔が智にしているように…
「夜も更けたことだし、そろそろ寝ようぜ?」
「ええ…、そうですね…」
「それに明日の朝は、早起きしないといけないしな」
「そう…、です…ね…」
それきり智からの返事はなく、代わりに聞こえてきた寝息に、和也も瞼を閉じた。