第10章 花脣なぞる指先に、彼の人の玉脣を想う
さらりとした肌に寝間着を着て、二人で一つの床に入るとすぐに睡魔が襲って来る。
「疲れたかい?」
「ええ、少しだけ…」
額にかかった髪を、男の割にはふっくらとした指で掬われ、智はその擽ったさに肩を竦めた。
「凄く疲れたし、眠くもあるのだけれど、でもどうしてだか、胸がやけに高鳴って…」
今にも閉じてしまいそうにとろりとした目をしで、智は小首を傾げた。
和也は胸の高鳴りの理由を尋ねようとしたが、咄嗟に潤の姿が思い浮かんで、喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。
まるで熱にでも浮かされているかのような、情の籠もった目で潤を見つめていた智を思えば、理由など聞くまでもなく分かる。
「私、あのように賑やかな場には、滅多に出たことがないし、そのせいかしら…」
祭りの賑やかな雰囲気を思い出しているのか、智の顔に微かな笑みが浮かぶ。
「あの人…翔さんは、祭りには連れてってはくれなかったのかい?」
「ええ…、あ、でも私がまだ幼い頃には、良く縁日にも出かけたりはしてたのだけれど…」
そう言って智は瞼を伏せると、小さく息をはきだしてから、和也の手をきゅっと握り、自らの頬にそっと宛てがった。
「もっとお話していたいのに…」
「良いよ、まだ時間はたんとある。ゆっくり聞かせて貰うよ」
「ええ…、そう…です…ね…」
それきり智は言葉を発することはなく、代わりにふっくらとした唇からは穏やかな寝息だけが零れた。