第9章 余香に彼の人想い、流れる涙
一息に階段を駆け上がり、息を整える間もなくぐるりと境内を見回す和也。
細めた視線が探しているのは、勿論じゅんの姿だ。
ところが、いくら周囲に丹念に視線をめくらせても、どこにも潤の姿はみあたらず…
「ちっ…」
和也は一つ舌打ちをすると、極力抑えた声で潤の名前をよんだ。
すると、何本かの蝋燭で灯された社殿の裏から、かさりと枯れ葉を噛む音が聞こえ…
「潤…か?」
恐る恐る声をかけると、薄っすらと浮かび上がった人影が、和也の方を振り返り…
「和也…?」
名前を呼びながら、近付いて来た。
「よかった…、待てど暮らせど来ねぇもんどから、てっきり約束の刻限をたがえちまったかとおもったよ」
「そいつは済まなかった。ちょいと色々あってな…」
和也は待たせてしまったことを詫び、まだ団子の味の残る唇を指で拭った。
「なお、ところであの子は…」
「お、ああ、智かい?」
智の名を聞いた途端、夜目にもわかるくらいはっきりと顔を赤くする潤に、和也ほ思わず吹き出してしまいそうになるか、それをぐっと堪えて、鳥居の下に続く階段を指さした。
「智なら、階段の麓で大人しく待ってるよ」
「そ、そうかい…」
「早く行ってやんな」
「で、でもよぉ…、どんな顔した良いか…」
この期に及んで体裁を気にする潤に、かずは深い溜息を一つ落とした。