第9章 余香に彼の人想い、流れる涙
智の手から空になった湯飲み茶碗と皿を受け取り、重ねて縁台に置いた和也は、着物の裾を手で払って整えると、名残り惜しそうに団子の皿を見る智の手を引いた。
「さて。そろそろ行こうか」
「え、ええ…」
潤との約束の刻限が迫っているせいか、自然と歩く歩幅は大きくなり、速さも増して行く。
その後を、立ち並ぶ屋台に目と興味を奪われながらも、智は必死に追いかける。
そして境内へと続く階段が見えて来た頃…
「か、和也…、私、もう…」
普段出歩くことも少なく、ましてや外を駆け回る事すら滅多にしない智は、膝ががたがたとし始めたのを感じ、ぴたりと足を止めてしまった。
「私はここで休んでいるので、和也はどうぞ…」
「そうは言ってもなぁ…」
肩で息をし、夜目にも分かる程顔色を悪くする智に、和也は暫く両腕を組み、考え込んだ。
この階段を上がった先に、潤が待ってる筈。
さて、どうしたもんか…
考えあぐねた和也は、「仕方ないね…」と呟き、再び智の手を引いた。
「いいかい、ここを動くんじゃないよ?」
「ええ…」
「もし、何かあったら大声で叫ぶんだそ、良いな?」
「…はい」
智を石段の一番下に座らせ、滾々と言い聞かせると、和也は何度も振り返りながら、数十段はあるだろうか、石階段を駆け上った。