第9章 余香に彼の人想い、流れる涙
「まあ、そのように恐ろしいことが…」
和也の話に熱心に耳を傾けていた智が、大袈裟なくらいに身体を震わせる。
これまで一人で出歩くことも少なく、常に翔の加護の元にいた智には、想像すら出来る筈もない。
「だからな、いくらお前さんが大丈夫だと言ったところで、ここにお前さん一人残しておくわけにはいかねぇんだよ。分かるな?」
「ええ…」
自身がいかに世間知らずなのかを、今更ながらに悟った智は、嫌悪からなのだろう、団子を手にしたまま俯いてしまう。
そして小さく息を吐き出すと、年の差など殆どない和也を見て、今度は長く息を吐き出した。
暗い表情を浮かべる智。
和也は智の肩に腕を回すと、串に刺さった団子を口いっぱい二頬張って見せた。
「そんな暗い顔しなさんなって。せっかくの団子が冷めちまうぜ?」
「まあ、それは大変…」
智は慌てて団子を口に運ぶと、団子を口に頬張った。
「美味いか?」
「ええ、とっても」
「そっか、そいつは良かった」
言いながら和也は周囲を見回した。
さっきまで茜色だった空は、いつしか夜の帳が落ち始め、ぽつぽつと灯る提灯だけが、辺りを照らしていた。
ゆっくり味わいたいところだか、そうも言ってられねぇな…
悠長に団子と茶を楽しむ智を横目に、和也は縁台から腰を上げた。