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T・A・T・O・O ー彫り師ー【気象系BL】

第9章 余香に彼の人想い、流れる涙


随分と長いこと並んで、漸く手にした団子を智に差し出すと、智は目を輝かせ、一本を手に取った。

「なあ、歩きながら食わねぇか?」
「歩きながら…?」
「せっかく祭りに来てんだから、雰囲気味わないと勿体ないぜ?」
「で、でもお行儀が…」

幼い頃より、翔に厳しく躾られた智だけに、食べ歩きなど下賤のすることと、ずっと思っていたし、そう教えられても来た。

それだけに、和也がどれだけ言葉巧みに誘っても、智は一向に首を縦には振らず…

「私はここで待っているので、どうぞ和也は楽しんで来て下さい」

挙句、和也に一人で祭りを回れと言うのだから、和也は渋々縁台に腰を下ろした。

「分かったよ、食べ歩きはやめだ」
「私のことなら気になさらなくても…」

智は言うが、和也にしてみたら、気にするなと言われても、当然〝ああそうですか〟とはならず…

「あのなあ、お前さんみたいに世間擦れしてねぇ者(もん)が、こんな所でうろうろしてたら、怖い目に遭うかもしれねぇだろ?」
「怖い目…って、どのような?」
「それはあれだ…、木陰に引き摺り込まれて、それから…」

実際、和也も何度かそれに近い目に遭ったことがある。

その時は通りすがりの岡っ引きにたまたま出くわし、九死に一生を得たが、もし岡っ引きが通らなかったら…と考えると、今でも背筋が冷える思いだ。
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