第2章 艶やかなる牡丹の如く
行灯だけの薄闇の中、翔の指が背に触れると、智は肩をぴくりと揺らし、細い腰を捩る。
その度に智の背に咲いた牡丹が、まるで花弁が風に揺れているかのようで…
「美しい…」
翔はぽつり呟くと、うっとりと双眸を細めた。
「それは…、私の背の牡丹ですか? それとも…」
実際の歳よりはうんと幼く見える面立ちに、壮絶なまでの妖艶さを浮かべ、智が首だけで振り返る。
すると、それまで堪えていた物が堰を切って溢れ出したのか、翔は智の細腰を引き寄せた。
「お師匠…さん…?」
「この世で、お前程に美しいものが他にあるものか…」
背中から回した手で智の顎を引き寄せ、紅を引いた様に紅く熟れた唇に口付けると、途端に身体の芯がまるで燃える様に熱くなる。
「ああ…、お師匠…さん…」
「その名で呼ぶなと、いつも言っているだろ…」
翔は、仕事の時ならいざ知らず、睦言の際に師匠と呼ばれることを嫌がる。
そのことを、当然智も承知していて…
「では、何と呼べば? 父上とでも呼びましょうか?」
時折こうして翔をからかっては、ころころと可愛らしい笑い声を立てる。
「戯けたことを言うな。大体、父と倅がこの様なことをすると思うのか?」
言いながら、智の白い肌に浮かぶ小さな尖りを指で摘んでやると、
「あっ…」
智の口から、翔の耳を溶かしてしまうような、甘い声が漏れた。