第2章 艶やかなる牡丹の如く
翔が、次は腰だと言わんばかりに、縁側にうつ伏せ身体を伸ばす。
ところが、智はそれがどうも気に入らなかった様で…
「ねぇ、お師匠さん?」
「ん、何だ」
「先程から、私の背がむずむずとして…。もしや、あの旦那に触れられた所為かも…」
翔の腰には一切触れず、腰を上げた智は、翔が施術を行う板の間に立ち、腰まで伸びた長い髪を束ねていた藍と朱で組んだ紐を、男の割には華奢な指で解いた。
そして、着物の片方の襟を落とし、白磁のような肌が露になると、翔の喉がごくりと鳴った。
「どれ、見てやろう」
うつ伏せていた身体を起こし、ゆっくりとした動きで、一歩また一歩と智に歩み寄る。
後ろ手に障子を閉めると、板の間は途端に薄闇に包まれ、再び灯した行灯の灯りだけが、部屋を照らしていた。
そんな中、翔は智の帯をしゅるりと、それはそれは慣れた手付きで解き、だらしなく肌蹴た着物も同時に床に落とした。
一度は解いた髪を指で束ね、今度は胸元へと垂らす。
すると、それまて長い髪で隠されていた背には、燃えるように朱い大輪の牡丹の花が浮かび上がった。
それは一輪ではなく、二輪、三輪と智の白い肌を埋め尽くすかのように描かれていて…
翔は花弁一枚一枚を、墨に汚れた指でなぞった。