第9章 余香に彼の人想い、流れる涙
二人連れ立って神社へと向かう途中、智は何度か足を止めては、風に乱された髪を整えた。
そして、結わえた髪の天辺に簪が刺さっていることを確かめると、安堵した様子で再び歩を進めた。
その様子に、和也は細い肩を持ち上げくすりと笑う。
「そんなにそいつが気になるかい?」
「ええ…、落としやしないかと心配で…」
普段から身を飾ることに頓着のない智だけに、何かの拍子に髪から滑って落ちてしまいやしないかと、気がかりで仕方ないのだ。
ましてや、簪に飾られていた蜻蛉玉は、庶民でも手に入れられる安価な物ではなく、見るからに高価な物だ。
智が気にかけるのも無理は無い。
ただ、和也にしてみれば、陰間になる見返りとして受けただけの物…
仮に、智の言う通り、本当に高価な物だったとして、それ程気にかけることもしない。
それでも、簪一つのために何度も足を止める智を安心させるため、和也は智の横からすぐ後ろへと回った。
「なん…ですの?」
「安心しな。こうしていれば、もし落としたとしても、拾ってやれるからさ」
「まあ…。和也は優しいんですね」
「そう…かい? そうでもないけど…」
和也にしてみれば、潤と交わした約束の刻限の方が、よっぽど気がかりで仕方なく…
智の背中をそっと押すと、和也は歩を進めるよう促した。