第9章 余香に彼の人想い、流れる涙
二人は明神祭りで会うことを約束し、潤は道具箱を、そして和也は風呂敷包みを、それぞれ肩に担ぎ別れた。
その時の二人の表情はと言えば、どうしてだか神妙な面持ちで…
もっとも、和也にしてみたら、自身の処遇にも関わることなのだから、自然と表情が強ばるのも無理はない。
そして潤もまた、このことが父昌弘に知れれば、ただでは済まないことが分かっているだけに、本当なら飛び跳ねたいところだが、そうも出来ないのが実際のところだ。
潤と和也…
二人それぞれが、決して穏やかでない心中のまま、無言で歩を進めた。
屋敷に戻った和也は、縁側でおすずに餌をやる智の前に胡座をかいた。
「あのさ、明後日の晩なんだけどな…」
「ええ…」
「明神さんで祭りがあってさ…」
「まあ…、お祭りが?」
祭りと聞いて途端に表情を明るくする智に、和也は潤の名を一切出すことなく、一緒に祭りに出かけないかと誘った。
ところが、智が喜びを顕にしたのは束の間のことで、すぐに表情を暗くすると、鳥籠の小窓を閉め、小さく首を横に振った。
「私のことはお気になさらず、和也は楽しんで来て下さい」
「何で…? 行きたくないのか、祭りに…」
「それは…、行きたいですけど、でも…」
翔のことを考えると、すぐには首を縦に振ることが出来ない智は、膝の上で結んだ手をもじもじとさせた。