第9章 余香に彼の人想い、流れる涙
このことが翔に知られれば、ただでは済まないことを、和也は案じている。
勿論、陰間仕事で手に入れる額には遠く及ばないが、一月遊んで暮らせる程の金を受け取っていることも、翔に知られるわけにはいかない理由の一つでもある。
うっかりあの人の耳に入りでもしたら、一生逃げて回る羽目になりそうだし…
和也は、一見すれば穏やかで、虫一匹も殺したことの無さそうな翔の、冷たくも恐ろしい声色と、強い眼力を思い出し身震いをした。
仕事柄かもしれないが、普段からならず者やごろつきの相手を多くしている翔だ、和也が感じた凄みは伊達じゃない。
「で、おいらはどうしたら…」
「そうだねぇ…」
潤に問われ、和也は自身の顎を指で摩ると、その場をうろうろと歩き回り、考えを巡らせた。
そして、向こう岸で見知らぬ老人が釣り糸を垂れたのをきっかけに、手と足の動きをぴたりと止めた。
「明後日の晩はどうだ?」
「明後日って確か…明神さんの…?」
「ああ、そうだ」
祭りに連れ出したとなれば、仮に翔に勘ぐられたとしても、多少の言い訳が立つし、何より人出も多い明神祭りの最中なら、人目を避けて二人を会わせることが出来る、と和也は考えたのだ。