第9章 余香に彼の人想い、流れる涙
「なあ…」
俯いたまま暫く考え込み、足元に落ちていた小石を川面に向かって蹴った潤が、意を決したかのように顔を上げた。
「もしよぉ、おいらが会いてぇって言ったら、会わせてくれるのか?」
「まあ…、出来なくもないかな」
「じゃ、じゃあ…」
「ああ…、会わせてやるよ」
都合の良いことに、翔が戻るのは半月程先のことだ。
その間であれば、適当な理由を付けて智を連れ出すことも可能だ。
「但し、条件…っていうかさ、呑むなら…だけどな」
「条件…?」
首を傾げる潤の前で、和也はゆっくりと腰を上げ、着物の裾を手で払った。
そして少しだけ背の高い潤を、下から見上げる格好で覗き込んだ。
どうするとばかりに…
「分かった、呑むよ」
暫く考えた後、大きく頷いてから和也を真っ直ぐに見据えた潤に、和也は「そうこなくちゃ」と笑って見せると、立てた人差し指を潤の目の前に突き付けた。
「俺からの条件は一つ」
特段威圧感があるわけでもないのに、ごくりと音を立てて唾を飲む潤。
その表情には、僅かばかりの期待感が浮かんでいるようにも見える。
「俺が手引きしたってことは、一切口にするんじゃねぇってことだ」
危ない橋ならこれまでいくつも渡って来た和也だが、今回ばかりは少々事情が違う。