第8章 月見上げ、恋い慕う彼の人想う夜
ひょっとして、智の想い人ってのは、潤…なのか?
それを智に問おうにも、智の悲しげな顔を見ると、それには至らず…
和也は自身の爪をかりっと噛んだ。
でもどうして二度と会えないなどと?
潤がそう言ったんだろうか?
どれだけ考えを巡らせても、答えなど一向に見つからず、和也の心中は益々焦れて行き…
「そろそろ休みましょうか…」
夜風の冷たさからか、身震いをした智が和也を振り返る。
「そうだな、そうするか…。あんたに風邪なんか引かせた日にゃ、あの人に何されるか分かんねぇからな」
「まあ、そんな大袈裟な…」
智はそう言って笑うが、和也にしてみたら満更でもなく…
ー智にもしものことがあれば、命は無いものと思えー
和也の脳裏に、翔から言われた言葉と、その時の鬼気迫るような表情が浮かび、寒さとは別の意味で身が震える。
これまで数々の修羅場を超えて来た和也だったが、その時程恐ろしい思いをしたことは、未だかつてない。
智の肩から落ちかけた半纏をかけ直してやると、和也はそっと細い腰に腕を回した。
そしてそのまま床まで智を連れて行くと、横になった智に布団をかけてやり、自身も隣に横になった。
すると、智が和也に身体を寄せて来て…
和也は戸惑いながらも、それに応えるように智の肩を抱いた。