第8章 月見上げ、恋い慕う彼の人想う夜
智の寝息を首元に感じながら、和也はぼんやりと考えていた。
もし智の想い人ってのが、本当に潤だとしたら…
勿論、潤から直接聞いたわけじゃないが、智のことを話す潤の様子と来たら、聞いてるこっちが恥ずかしくなるくらいだった。
潤とは長い付き合いになるが、あんな顔は見たことがない。
あれで惚れてないと言ったところで、誰が信じるものか。
…となると、二人は相愛の筈。
なのにあの涙は一体…
どれだけ考えても見つからない答えに、和也は天井を見つめていた目を閉じた。
あれこれ考えたって仕方ない。
ここは智のためにも、それから潤のためにも、人肌脱ぐしかないな。
和也は密かにある計画を企て、そのまま深い眠りへと落ちた。
翌朝、智よりも僅かに遅れて目を覚ました和也は、智が用意した朝餉を摂ることもせず家を出た。
向かった先は、自身が住まう長屋で…
和也は、寝ている母親を起こさないよう、物音を立てることなく、とりあえずの着替えだけを風呂敷に包み、長屋を出て潤の住まう長屋へと向かった。
この時分ならまだ出かけてはいない筈。
和也は井戸の陰に身を小さくし、潤が長屋の木戸を開けるのをひたす、に待った。
そして…
「潤…」
道具箱を肩に、後ろ手に木戸を閉めた潤に声をかけた。
【月見上げ、恋い慕う彼の人想う夜】ー完ー