第8章 月見上げ、恋い慕う彼の人想う夜
和也は智に、あの雨の日のことを、包み隠すことなく話して聞かせた。
ただ一つ、自分が潤の幼馴染だということだけは、どうしてだか伏せなければならないような気がして、その時は明かすことが出来なかった。
すると智は、心底驚いた顔をしたが、直ぐに顔を俯かせ、頬を赤く染めた。
「そのような姿を見られていたなんて…。恥ずかしい…」
両手で顔を覆い、羞恥に首を振る智に、和也は更に問いを重ねた。
「何で泣いてたんだい?」
「それは…」
覆っていた手を剥がし、上げた智の顔から笑みが消える。
聞いちゃいけないことだったんだろうか…
和也は一瞬後悔したが、それも後の祭りで…
「お、おい…、何か悪いこと言ったか?」
静かに流れた涙を見た和也は、慌てて自分よりも僅かに小さな智の肩を抱き寄せた。
まさか泣くなんて…
よっぽど言辛いことでもあったんだろうか?
「悪かった。言いたくなかったら言わなくても…」
耳元で言いながら、小刻みに震える背中を撫でてやると、智は鼻を啜り…
「いいえ、そうではなくて…」
和也の腕の中で首を振った。
「もう二度と会えないあの方のことを思うと、つい…」
そう言ったきり、智は涙を拭うこともせず、ただただ月を見上げた。