第8章 月見上げ、恋い慕う彼の人想う夜
和也が潤から智のことを聞かされたのは、智が初めて潤の身体に墨を入れた、その日のことだった。
尤も、その頃にはまだ筋彫りの段階ではあったが、潤は着ていた法被を脱ぎ、それはそれは自慢げに和也に見せた。
てっきりそれなりに腕の確かな彫師のものだと思った和也は、そう大して気にも止めることもしなかったが、それが自分達と同じ年頃で、まだ名もない彫師の物だと知り、驚きに目を丸くした。
和也は潤からその彫師について聞かされる度、いつか会ってみたいと思うようになっていた。
そんな折り、土砂降りの雨の中、長屋の前に立ち尽くし、涙を流す一人の少年を見かけた。
その時は、その少年が潤の言う彫師だとは気付いていなかった和也だったが、まさかこんな形で会うことになるとは、想像すらしていなかった。
「なあ、一つ聞いても良いかい?」
「ええ…」
「俺、前に一度だけあんたのこと見かけたことがあってね…」
和也はずっと気になっていたことを口にした。
「まあ、私を…ですか?」
智が首を傾げるのも無理はない。
智は、翔が和也を連れて来るまで、和也のことなど何も知らなかったのだから。
「それはどこ…で?」
指を口元に宛て、首を何度も捻る智に、和也はくすりと笑うと、横たえていた身体を起こした。