第8章 月見上げ、恋い慕う彼の人想う夜
智と和也は、育ちが違うにも関わらず、余程馬が合うのか、まるで幼い頃から知っている間柄のように打ち解け、三日も過ぎた頃には、寝床はおろか風呂まで共にするようになった。
歳が近いのも、二人が思いのほかすんなりと打ち解けられた要因にもなったのだろう。
和也のおかげで、智の寂しさは幾分かは紛れた。
それでも夜になれば、縁側に立ち、月を見上げては、目に涙を溜めることもしばしばで…
「そんなにあの人…翔さんが恋しいのかい?」
和也が翔の半纏を智の細い肩にかけた。
「ええ…。でもそればかりではなくて…」
智は縁側に腰を下ろし、おすの籠を引き寄せると、最近になって漸く人に慣れて来たのか、濃い茶の羽根をすっと指で撫でた。
「こうして月を眺めていると、あるお方のお顔が自然と浮かんで…」
「へぇ…。あんたにそんな人がいるとは、意外だな」
「そうですか?」
「てっきり〝おぼこ〟だとばかり思っていたからね」
からかい口調で言って、和也が肩を竦める。
ところが、いつもなら〝おぼこ〟と言われて口を尖らせる智が、くすりと笑って袂で目尻の涙を拭った。
「惚れてんだな、その人に…」
「分かりません。ただ、もう二度とそのお方に会うことがないと思うと、胸が締め付けられそうに苦しくて…」
そう言って智は自身の胸を、細く白い手で抑えた。