第8章 月見上げ、恋い慕う彼の人想う夜
弟子と言うべきか、それとも倅だと言うべきなのか…
迷った挙句、翔は智を〝倅〟だと紹介した。
勿論、二人が血を分けた親子でないことは、和也にはお見通しだ。
何しろ、智の乱れた寝間着の間から見える肌には、明らかに情を交わした痕が無数に浮かんでいるのだから…
それでも和也は気付かぬ振りで智の前に座し、男の割には柔らかそうな手を智に向かって差し出した。
「俺は和也。よろしくな?」
人懐っこい笑顔を浮かべる和也に、智の警戒心も解れたのか、智は和也の手を握り返した。
「私は智。こちらこそよろしく…」
その様子に、翔は心底安堵したのか、二人を残しそっと寝間を出ると、仕事道具を纏めた風呂敷包みを開いた。
いくら気の進まない仕事とはいえ、やはり自分の手に馴染んだ道具を使いたいと思うのは、翔の仕事への拘りなのだろうか…
一通り道具を見直し、不備がないことを確かめた翔は、再び仕事道具を纏めた木箱を風呂敷に包んだ。
そしてふと寝間の方に意識を向けると、何やら楽しそうな笑い声が聞こえて来て…
「やれやれ…、今泣いた烏がもう笑うとは、正にこのことか…」
あまりに呆気ない智の変わりように、翔は僅かばかりの寂しさを感じてしまうが、泣いて縋られるよりは、まだ笑っていてくれた方がましと自身に言い聞かせ、翔は智の手を借りることなく身支度を始めた。