第8章 月見上げ、恋い慕う彼の人想う夜
「こんな時分に誰でしょう…」
翔の客が来るには早過ぎる時刻だし、そもそも翔はお役目のためにある程度の仕事は断って来た筈。
智は翔の襟元をきゅっと掴むと、怯えた表情で翔を見上げた。
ところが…
「かまわん、入って来い」
翔は襖の向こうに声をかけると、智の肩に自身の羽織をかけた。
「お師匠…さん?」
それまで不安気だった顔を一変させ、驚きの表情を襖に向ける智に、翔はくすりと笑って肩を抱き寄せた。
そして襖がゆっくりと開き、隙間から顔を覗かせた色白の少年に向かって、「良く来たな」と声をかけた。
「あの方は一体…?」
戸惑いと驚きが隠せない智は、翔の襟元を掴んだままで、翔と少年とを交互に見るが、少年は全く気にする様子もなく、笑みを浮かべ少年に向かって手招きをしている。
「あ、あの、お師匠…さん?」
「この子は和也と言ってな…」
「は、はあ…」
「歳も近い事だし、私が留守の間、お前の話し相手にどうかと思ってな…」
「私…の、ですか?」
翔の知り合いだということが分かり、心做しか安堵した様子の智だが、その手はまだ翔の襟元から離れることはない。
「和也、この子が先日話した私の…」
そこまで言って翔は言葉に詰まってしまう。